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ワイナポトシに挑む

深夜0:00。

目覚ましが鳴るでもなく、誰からとも無く、全員がゆっくりと起床し準備を始めました。
持ち物は水とチョコレートとカメラのみ。ほとんど手ぶらです。
軽い食事を取り、装備を全て装着し、その時を待ちます。


そして深夜1:00。
登頂開始です。


ハイキャンプまでは様々な大きさの石がゴロゴロと転がった山道でしたが、
ここから上は全て真っ白な雪に覆われています。

ハイキャンプは山の中腹ですが、少し小高い丘と言うか高めにせり出している場所なので、
雪の地面に切り替わるところまで30メートル程下る必要があります。そこでアイゼンを装着しました。




昨日はよく眠れませんでした。
噂に聞いていた通りなかなか寝付けず、結局、睡眠時間は1時間ないし2時間ほどです。
カロリーナと、昨日知り合ったアメリカ人男性アレックスも似た様なものだったそうです。

また、寝入り際からずっと頭痛もしていました。
南米最初の街キトへ到着した直後を除いては、これまで高山病にかかったことは一度もありませんでしたが、
やはり避けられなかったようです。高所で眠ると呼吸が浅くなり、発症しやすいそうなのです。

が、昨日日本人青年からもらった高山病の薬が役に立ちました。
これを飲んだのも初めてですが、1時間ほど経ったらあっという間に頭痛が引いたのです。
ツアー会社の人とこれまでの旅路を確認し、十分高所順応できているだろうと言う事で
高山病の薬は持ち物に入っていなかったのですが、やはり準備しておくべきだったようです。
日本人青年に助けられました。




私、カロリーナ組にガイドさん一人。アレックスと、ガイドさん一人。
それぞれのグループは転落や滑落、及び遭難防止のためロープで繋がれています。
私たちとアレックスは別グループですが、同時にスタートしました。

昨日の練習で氷の上は歩きましたが、アイゼンで雪上を歩くのは初めてです。
風もなく、ヘッドランプの灯りが5つ揺らめくだけの無音の世界の中、
足下からザクザクと心地よい音が響いていました。


歩くスピードはかなりゆっくりでした。
それでももちろん地上と同じ様にはいかず、すぐに息が切れました。
列の順番はガイドさん、私、カロリーナ。
私たちは体力や歩くスピードが近いのか、お互い丁度良いタイミングで立ち止まり、休憩を挟む事ができました。

どちらかが脱落した場合その人を置いて行く訳にはいかないので、もう一方も諦める事になります。
自分だけ頑張っても仕方が無いので、一緒に登る相手との相性は重要です。
今思い返してみても、私と彼女は良いチームだったと思います。




歩き続けているうちに、気付けばどんどん高いところまで登って来ていました。
時計はあまり見ていませんでしたが、おそらく、1〜1.5時間に1回程度ちゃんとした休憩があったと思います。
定期的に挟む休憩は立ったままで数秒間でしたが、上記の休憩では雪上に座って水を飲む時間が貰えます。
この休憩でしっかり息を整え、先へ進む力と気力を呼び戻しました。


雪上の道はちゃんとした道ではなく、昨日までの挑戦者達が残した足跡を辿るだけです。
斜面はときになだらかで、ときに急で、ピッケルを使ってよじ登らなくてはいけない場所もあります。
一カ所、昨日のアイスクライミング体験ほどではないにせよ、かなり急な場所もありました。
ピッケルと左右の足を使い、10メートル程の急斜面をよじ登って行きます。

道幅は60センチ程。両脇には巨大なクレパスが口を開けています。
クレパスとは雪上の巨大な裂け目のことです。突然、ぽっかり穴が空いている場所があるのです。
落ちたらただでは済みません。

暗闇でよく見えないのが幸いでした。
ヘッドランプでは手元だけを照らし、決して、クレパスの中は見ない様にしました。




PC257546.jpg

半分か、3分の2くらい来たでしょうか。
遠くにラパスの灯りが見えました。

正確な時間は分かりませんが、まだ深夜なのは確かです。
さすが首都と言ったところでしょうか。外国の都会もやはり眠らないのだなと、妙に納得した覚えがあります。




実は、後半1時間を残すくらいまでは結構余裕がありました。
息は苦しいし、慣れない登山の為か足の付け根が痛み始めましたが、
それでも「リタイヤ」という発想は全くありませんでした。
苦しくて辛いけれど、どこか「まあこんな感じかな」という冷静さがあったのです。
具体例は出ませんが、もっと辛い事は他にある様な気がしました。

しかし、最後の方はさすがに厳しくなって来ました。
息は乱れ、足はだんだん力を無くし、さらに追い打ちをかける様に空が明るくなり始めました。
日が昇ると雪が溶けて危険なため、そこで強制ストップをかけられてしまうと聞いています。
日の出に間に合わなかったら、登頂できないということです。

諦めたくありませんでした。
登頂できなかったら、何の為にこんなに苦しい思いをしているのか分かりません。
そして自分の頑張りも、これまでの旅も、これからの旅も、全てが宙ぶらりんになってしまう気がしたのです。

私には経験も技術もなく、武器として使えるのは体力・気力・根性のみ。
心もとないスペックですが、その3つはこれまでの人生と、これまでの旅で培ってきた私の財産です。
本来ならば謙遜するところでしょうが、自分の頑張りは自分が一番よく知っています。
きっと自分なら登頂できるという思いは、最初から最後まで消えませんでした。




「あと30分だよ。頑張って」

ガイドさんに言われ顔を上げると、すぐそこに頂上が見えていました。
あと少し、30分だけ頑張れば頂上です。

しかし目の前に迫るのは急な斜面と、落ちたら怪我どころでは済まない尾根道でした。
普段なら景色を楽しむ余裕もあったと思います。
しかしこのときにはかなり疲れて来ており、息も上がり、体が言う事を聞かなくなっていました。
そしてふと、足を踏み外す自分を想像してしまい、「怖い」と思いました。

不安を隠せず、この先の道から目をそらすように後ろを振り向いたら、
カロリーナが私と同じ表情で尾根道を見つめていました。

目が合った彼女は、小さな声で「行こ」と言いました。
私も同じ言葉を返しました。




PC257548.jpg

私たちは登頂しました。

頂上へ着いたら何を言おうか、何を叫ぼうかと思っていましたが、
実際の所は2人ともクタクタで、感嘆の声を発することもなくその場に座り込むだけでした。

そして、ただ黙って景色を眺めていました。




静かな山の上に、「頑張ろう・・」と言う小さな声が聞こえました。

私の声でした。

無意識に口から出た言葉ですが、妙にしっくりと、頭に入って来ました。
今日も明日も明後日も、毎日「頑張ろう」と思いました。
いつも頑張り続ける、格好良い自分でありたいと思いました。




2012122503.jpg

チチカカ湖です。

チチカカ湖からラパスは結構離れていると思いますが、こんなにはっきりと見えるなんて
チチカカ湖はやはりかなり大きな湖なのです。

つい先日まで見ていた湖とこんな形で再会できたことが、なんだか嬉しく思えました。




PC257565.jpg


日はすっかり昇っていました。

時刻は6:30。
5時間半かけての登頂でした。


ここでふとツアー会社との会話を思い出し、気付いたのですが、

「ハイキャンプから頂上までは5〜6時間」
「日の出は5:00〜5:30の間」
「登頂開始は深夜1:00」


どう考えても間に合わないスケジュールじゃないですか。

なんてこったです。
馬鹿正直に日の出を目指してしまいました。



以前、山頂で日の出を見た人の話を聞いたことがあるのですが、
彼らはよほどペースが速かったということでしょうか。
あるいは、私たちが遅かったんでしょうか。
ツアー会社は最初から、初心者である私のペースを見越して「5〜6時間」と言ったのでしょうか。
あと、日が昇ったら登頂できないという噂は何だったのでしょうか。


よく分かりませんが、登頂できたので私はそれでいいです。




PC257566.jpg

10分くらいの休憩を挟んだのち、下山を開始しました。
写真は最後に歩いた尾根道です。



少し離れた所に、アレックスの姿がありました。彼は登頂せず、尾根道の前で引き返した様です。
もったいないとは思いましたが、最後のキツさを体験したばかりの私たちは、彼に「頑張れ」とは言えませんでした。



PC257567.jpg

登頂ルートの脇にはこんな景色もあります。
登りのときは暗かったのと急いでいたのとで写真は撮れませんでしたが、
青い闇に浮かび上がる氷の壁は非常に美しかったです。




PC257569.jpg

下りは早く、あっという間に山頂は遠ざかって行きました。
真ん中の尖った所がさっきまでいた山頂です。



このとき実は、頭が痛くて気持ちが悪くて意識が朦朧としていました。
登頂するまでは大丈夫だったのですが、気が緩んだんでしょうか。疲れが一気に来ました。

と言っても動けない程ではなく、5分程座って休憩を貰えれば回復しそうだったのですが、
鬼ガイドさんはそれを許してくれませんでした。

OK、分かった。だがこのまま行くとクレパスに落ちて死ぬがそれでもいいのか。

と脅そうかと思いましたが、口を開く体力すらありませんでした。

そんな中で、上の方に書いた「両脇がクレパスの60センチの道」をまた這い降りるのです。
後ろ向きで降りるので、登りの何十倍も危険で難しくて恐ろしいです。
今度は明るいのでクレパスがしっかり見えていますし。


上からガイドさんにロープを引っ張ってもらいながら、言う事を聞かない手足、朦朧とした意識、頭痛、吐き気、滝の様に出る冷や汗と共に少しずつ下って行きました。「早く行け!」と急かされながら。

クレパスに落ちるときは絶対にガイドを道連れにしようと思いました。


いえ、仕方がないのは分かっているんです。
「気温が上がると雪が溶けて危険」だと聞いており、ゆっくりしていられない状況だと言う事は知っています。
が、「雪が溶けて危険」の前に私は今まさに危険なのでございます。
神様タスケテーと心の中で叫びました。



その後は何度も何度も滑って転びながらも、無事にハイキャンプに到着しました。
正確には、ハイキャンプの下の雪と雪じゃない所の境目に到着しました。
ここから小屋までの約30メートルを登るのに20分かかったのです。

3歩登っては肩で息をし、また3歩登っては岩の上に座り込み、なかなか進みませんでした。
私だけでなく、カロリーナもです。
先ほどまで元気に歩いているように見えましたが、彼女も限界だった様です。
そんな中、体調の悪い私をずっと励ましてくれていたカロリーナ。最高の相棒です。



ほとんど地を這う様にして山小屋に到着した後は、2人して共同スペースのベンチに倒れ込みました。
トイレに行きたかったのですがトイレまでの20メートルを歩く体力がなく、もう漏らしたろかと思いました。
なので一応カロリーナに確認してみたところ、「いいと思う」と真顔で言われました。
彼女もまた来るところまで来ています。



軽い昼食を含めた45分程の休憩を挟んだのち、ベースキャンプに向けて下山を開始しました。
私もカロリーナも体力が底をついており、10:00出発と言われていたのに9:59まで寝ていましたが、
15分程遅れてなんとか出発できました。

高度を下げたおかげで頭痛と吐き気は収まっており、また、昼食として頂いたスープともりもり食べた(そしてまた気持ち悪くなった)チョコレートが効いて多少の体力は戻って来ています。
一応、なんとか、ぎりぎり、無理をすればベースキャンプまで戻れそうです。




PC257571.jpg

水の分がだいぶ減っているものの、また12キロくらいを担いで下りないといけないので大変でした。
だいぶ足に来ているので、このゴロゴロの石を踏み外さない様かなり慎重に行く必要があったのです。
滑って転んで足を捻って頭を岩にぶつけ辺りが血に染まるというイメージが頭から離れなかったので、
本当に、本当に慎重に歩きました。




PC257572.jpg

そしたら置いて行かれました。
腹いせに撮ったのが上の写真です。
仲間なんて幻想だったのです。



約1時間後、はるか彼方を歩く2人よりだいぶ遅れてベースキャンプに到着しました。

その後は何とか最後の力を振り絞り、装備の返却と再荷造りをすませ、
30分後くらいに来たお迎えの車に乗ってラパスに帰りました。


これにてワイナポトシへの挑戦は終了です。


スカッとしました。





PC267581.jpg
ヒョウ

ラパスに着いたらヒョウが降り始めました。
クタクタの身に酷い仕打ちです。
腕や顔に当たってとても痛かったです。



PC267583.jpg
難民バッグ

ワイナポトシ前に泊まっていた宿は欧米人天国で、
クリスマスなんか超ハイシーズンで満員御礼だと言うので宿を替えました。

写真は、ワイナポトシに行っている間宿に荷物を預けるために買ったバッグです。
リマで知り合った人が難民バッグと呼んでいたので私もそれに習いました。

インディヘナのおばちゃんがよく持っており、
かなり重そうなものを入れてズルズルと引きずっても破れない頑丈なやつです。

難民呼ばわりとは失敬ではあるまいかと思いましたが、彼女達は確かに
「夜逃げでもするんか」というくらいいつも大荷物です。写真のバッグはまだ小振りな方です。



IMG_3623.jpg
本日の晩ご飯

登頂成功の暁には日本食レストランけんちゃんで一番高いのを頼んでやろうと思っていたのですが、
けんちゃんは結構遠く、辿り着く体力がありませんでした。
なので、宿に比較的近い所にあるバーガーキングで手を打ちました。

五臓六腑に染み渡りました。


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| ボリビア | 22:07 | comments:7 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

お疲れ様でした

登頂おめでとうございます( ≧ν≦)
すごいなぁ、リアルイモトアヤコみたいな。

| えっへる | 2013/01/04 12:04 | URL | ≫ EDIT

>えっへるさん

ありがとうございます!

イモトアヤコには一生適いません。笑
やってみて分かりましたが、彼女の体力と運動神経は本当にすごいです・・

| 低橋 | 2013/01/04 12:31 | URL |

写真を見てわかりましたけどりかなり危険でハードな道ですね。登山の番組をよく観るんですが登頂して絶叫する人が少ない理由がわかりました(^^)自分も周りを見下ろせる山に登ってみたいものです。そしてアホな写真撮りたいと思います(笑)

| コミ | 2013/01/04 20:36 | URL |

>コミさん

両脇クレパスの60センチの道を写真に残せなかったことが残念です。
行きは暗く、帰りはカメラを構える余裕がほとんど無かったので。
あの地獄行きの道を是非見て頂きたかったです。笑

阿呆な写真は、実はあそこであれをやるのはちょっと危険だったらしく、
「雪が崩れて反対側に落ちるかもしれないからそういうことしちゃだめだよー」
とガイドさんに注意されたのであまりやらないほうがいいかもです。笑

| 低橋 | 2013/01/04 22:43 | URL |

いつも読ませていただいています。
ランキングの中で1番楽しみなブログです。
飾らない文体がとても好きです。
頂上での頑張ろう、グッときました。

お体お気をつけて旅を続けて下さい。

| 金丸文武 | 2013/01/07 11:07 | URL |

>金丸文武さん

ありがとうございます。

極限状態のときに出た言葉が「頑張ろう」であったことは、
下山後冷静になって考えたらなんだか嬉しく、そして誇らしく思えました。
頂上の自分を裏切らないよう、頑張って参りたいと思います!

| 低橋 | 2013/01/08 12:34 | URL |

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| | 2013/01/08 13:03 | |















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